QRコードはなぜ斜めでも読めるのか?——技術の仕組みを徹底解説
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この記事で分かること(3行まとめ)
- 3つの四角(ファインダーパターン)が360度読み取りを可能にしている
- 「リード・ソロモン符号」のおかげで汚れや欠けがあっても復元できる
- 1:1:3:1:1という比率は「印刷物で最も使われていない比率」として発見された
スマホをQRコードにかざすとき、真正面から撮らなくても読み取れることに気づいたことはありませんか?
斜めから撮っても、多少汚れていても、端が欠けていても読める。これ、よく考えると不思議です。
この記事では、QRコードがなぜこんなに読み取りに強いのか、技術的な仕組みを深掘りします。
結論:「3つの四角」と「誤り訂正」の合わせ技
QRコードの読み取りの強さは、大きく2つの仕組みで実現されています。
| 機能 | 何ができる? | どうやって? |
|---|---|---|
| 360度読み取り | どの角度からでもOK | 3つの四角(ファインダーパターン) |
| 汚れ・欠け耐性 | 30%まで損傷しても復元 | 誤り訂正(リード・ソロモン符号) |
この2つが揃っているからこそ、日常のあらゆる場面で「なんとなくかざすだけで読める」という体験が実現できているのです。
【構造】QRコードを分解してみる
QRコードは、いくつかの「機能」を実現するための情報と「データ領域」で構成されています。
QRコードの構成要素
QRコードの構成要素。各パターンが役割を持っている
| 名称 | 場所 | 役割 |
|---|---|---|
| ファインダーパターン | 3つの角 | コードの位置・向きを検出 |
| タイミングパターン | ファインダーパターン間 | モジュール(セル)の位置を特定 |
| アライメントパターン | 中央付近(バージョン2以上) | 読み取り時のゆがみ補正 |
| クワイエットゾーン | QRコードの外周 | 周囲との境界を確保 |
| フォーマット情報 | ファインダーパターン周辺 | 誤り訂正レベル・マスクパターン |
| データ領域 | それ以外 | 実際のデータと誤り訂正符号 |
QRコードの白黒のセル1つ1つを「モジュール」と呼びます。このモジュールの配置がすべてを決めているのです。
【仕組み1】3つの四角——360度読み取りの秘密
QRコードの最大の特徴は、3つの角にある大きな四角形です。これをファインダーパターン(位置検出パターン) と呼びます。
なぜ3つなのか?
3点あれば、平面上の位置と向きが一意に決まります。
- 位置: コードがどこにあるか
- 向き: どの角度で傾いているか
- サイズ: どのくらいの大きさか
3つの四角を見つけることで、スキャナーは瞬時にQRコードの状態を把握できるのです。
囲碁からのヒント——QRコードの開発者・原昌宏氏は、昼休みに打っていた囲碁から着想を得たそうです。碁盤に白黒の石がマトリクス状に並ぶ様子を見て「縦横の2方向で情報を持たせられる」とひらめいたことが、2次元コードの原点になりました(Newsweek Japan)。
「1:1:3:1:1」という魔法の比率
ファインダーパターンの構造を見てみましょう。
どの方向から走査線が通っても、黒:白:黒:白:黒 = 1:1:3:1:1 の比率になる
黒と白が同心正方形状に並んでおり、これをどの方向(縦・横・斜め)から見ても、黒:白:黒:白:黒 = 1:1:3:1:1 の比率になります。
この比率が「360度どの角度から走査線が通っても同じパターンとして認識できる」という仕組みを生み出しています。
なぜ「1:1:3:1:1」なのか?
QRコード開発チームは、この比率を見つけるために膨大な調査を行いました。
デンソーウェーブの公式サイトによれば、チラシや雑誌、段ボールなど数えきれないほどの印刷物を白黒変換し、そこに現れる図形の比率を徹底的に調べ上げたそうです。
目的は「印刷物の中で最も使われていない比率」を見つけること。
類似した形が身の回りに溢れていたら、誤認識してしまいますからね。
この調査には半年かかり、ついに「1:1:3:1:1」という答えにたどり着きました。日本語だけでなく、アルファベット、ハングル、アラビア文字、中国の漢字……あらゆる文字を調べた結果です。
【仕組み2】誤り訂正——汚れや欠けがあっても読める理由
QRコードは、多少の汚れや欠けがあっても正しくデータを読み取れます。この機能を誤り訂正(Error Correction) と呼びます。
リード・ソロモン符号とは?
QRコードの誤り訂正には、リード・ソロモン符号(Reed-Solomon Code) という技術が使われています。
これは1960年にアーヴィング・リードとギュスターヴ・ソロモンによって考案された数学的な技術で、CDやDVD、人工衛星の通信、地上デジタル放送など、幅広い分野で使われています。
簡単に言えば、「データにあらかじめ”冗長な情報”を付加しておき、一部が欠けても元のデータを復元できる」という仕組みです。
4つの誤り訂正レベル
QRコードには、4段階の誤り訂正レベルがあります。
| レベル | 復元可能な損傷率 | 用途 |
|---|---|---|
| L(Low) | 約7% | データ容量優先。きれいな環境向け |
| M(Medium) | 約15% | 一般的な用途。バランス型 |
| Q(Quartile) | 約25% | やや過酷な環境向け |
| H(High) | 約30% | 工場・物流など。デザインQRにも |
「損傷率30%まで復元可能」というのは、かなり強力です。
これがあるからこそ、デザインQRコード(中央にロゴを入れたもの)が実現できます。ロゴ部分は「あえて壊された領域」として扱われ、誤り訂正で補っているのです。
なぜ工場向けに開発されたのか
QRコードは、もともとデンソー(トヨタグループの部品サプライヤー)の工場で使うために開発されました。
工場では、油汚れや傷がつきやすい環境です。そこで「汚れていても読める」という機能は必須でした。
誤り訂正機能は、まさにこの現場のニーズから生まれた技術なのです。
【時間がない方へ】 基本編はここまで。要点だけ知りたい方は「まとめ」へどうぞ。以下の深掘り編は、時間のある時にじっくりお読みください。
【深掘り】アライメントパターン——ゆがみ補正の仕組み
大きなQRコード(バージョン2以上)には、アライメントパターンという小さな四角が追加されます。
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これは、読み取り時のゆがみを補正するための目印です。
紙が曲がっていたり、曲面に印刷されていたりすると、QRコードは台形や平行四辺形に見えます。アライメントパターンを基準にすることで、このゆがみを計算で補正できるのです。
バージョンが上がる(=データ容量が増える)ほど、アライメントパターンの数も増えます。
【深掘り】タイミングパターン——モジュールの位置決め
ファインダーパターンを結ぶように、白黒が交互に並んだ線があります。これがタイミングパターンです。
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この交互パターンは、各モジュール(セル)の正確な位置を特定するために使われます。
特に大きなQRコードでは、モジュールの数が多くなるため、「今どの列を読んでいるか」を正確に把握することが重要になります。タイミングパターンは、その「目盛り」の役割を果たしているのです。
【深掘り】クワイエットゾーン——見落とされがちな「余白」
QRコードの外周には、クワイエットゾーンと呼ばれる余白が必要です。デンソーウェーブの解説ページでは、四辺すべてに4モジュール分の余白が定められています。
なぜ余白が必要なのか?
クワイエットゾーンは、ファインダーパターンの検出を助ける重要な役割を担っています。
リーダーは走査線上の明暗パターンからファインダーパターンの1:1:3:1:1を探しますが、QRコードの周囲に文字や図形があると、それらがパターンに紛れてしまい、ファインダーパターンを正しく検出できなくなります。
メディアシーク社の解説でも、クワイエットゾーンの不足はQRコードが読み取れなくなる代表的な原因として挙げられています。
実務での注意点
ドキュメントやポスターにQRコードを埋め込む際、デザインの都合で余白を削りがちですが、これは読み取り失敗の原因になります。QRコードと周囲の要素(文字、罫線、画像など)との間に、十分な余白を確保することが大切です。
【深掘り】マスクパターン——読み取りやすさを向上
実は、QRコードのデータ領域にはマスク処理が施されています。
なぜマスクが必要なのか?
もしデータをそのまま配置すると、黒いモジュールや白いモジュールが偏って配置されることがあります。
- 黒い部分が大きく固まる → ファインダーパターンと誤認される可能性
- 同じパターンが連続する → スキャナーが位置を見失う
これを防ぐため、8種類のマスクパターンからデータを最も読み取りやすくするものを選び、XOR演算で適用します。
8種類のマスクパターン。データ領域に適用し、最もバランスの良いものが選ばれる
フォーマット情報には「どのマスクパターンを使っているか」が記録されているため、読み取り時に逆変換してデータを復元できます。
【深掘り】特許を無料開放した理由
ここまで優れた技術なら、特許料で大儲けできそうですよね。
しかしデンソーウェーブは、JIS/ISOの規格に準拠したQRコードに対しては特許権を行使しないと宣言しました。
この戦略については、別記事「QRコードはなぜ無料なのか?」で詳しく解説しています。
結論だけ言えば、「短期的な特許料」より「長期的な市場支配」を選んだ結果、QRコードは世界標準になりました。
まとめ:QRコードは「強くて」やさしい
ここでいう「強さ」とは、読み取りの強さ——斜めから読んでも、汚れていても、一部が欠けていても正しく読み取れる、という意味です。その強さを支える仕組みをまとめます。
360度読み取りの秘密
- 3つのファインダーパターンで位置・向き・サイズを特定
- 1:1:3:1:1の比率はどの角度から見ても同じパターン
- 半年かけて「印刷物で最も使われていない比率」を発見
汚れ・欠け耐性の秘密
- リード・ソロモン符号で冗長データを付加
- 最大30%の損傷まで復元可能(Hレベル)
- 工場の過酷な環境を想定して設計
その他の仕組み
- クワイエットゾーン(4モジュールの余白)でファインダーパターンの検出を保護
- アライメントパターンでゆがみを補正
- タイミングパターンでモジュール位置を特定
- マスクパターンで読み取りやすさを向上
日常で何気なく使っているQRコード。その裏には、これだけの技術が詰まっています。
参考情報
関連記事
- QRコードはなぜ無料なのか? - デンソーウェーブのフリーミアム戦略
- QRコードを編んでみた - 実際に編んで仕組みを体感
- 技術書典に初出展してみた - QRコードの本を出した話
この記事を書いた人の技術書
📚 『QRコードを編む』 megusunu 著
QRコードの仕組みを「編み物」で理解する本。誤り訂正レベルの選び方や、セルサイズの限界など、実験を通じて学べます。
関連書籍
- 『QRコードの奇跡』 小川進 著(東洋経済新報社):開発者への取材をもとに、QRコードの誕生から世界標準になるまでの物語を描いた一冊
- 『QRコードのおはなし』 標準化研究学会 編(日本規格協会):技術仕様の解説書。用語集も収録
参考URL
デンソーウェーブ公式
原昌宏氏インタビュー
技術解説
- QRコードのしくみ | キーエンス
- バーコードやQRコードが読みにくくなる例 | メディアシーク
- QRコードの仕組み | Wikipedia
- リード・ソロモン符号 | Wikipedia
- リード・ソロモン符号とは | siglead
- QRコード | 特許庁
※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です